「売上税」はなぜ「消費税」になったのか

消費税は、最初から「消費税」として受け入れられた税ではありません。

日本で最初に国会へ出されたのは、1987年の「売上税」法案でした。

しかしこれは強い反発で廃案になる。

その翌年、今度は「消費税」という名前で通された。

ここで変わったのは、名前だけではありません。

税の見え方が変えられたのです。


出発点はフランスの付加価値税だった

付加価値税(VAT)は、フランスで考案され、1954年に世界で初めて導入されました。

ここに消費税の出発点があります。

そして一部の税務論考や批判的解説では、この付加価値税は、戦後フランスがルノーのような輸出企業を支えるため、補助金を税の仕組みに組み替える形で作られたと説明されています。

なぜそんな回りくどいことをするのか。

理由はGATTです。

GATTの下では、露骨な輸出補助金は問題になりやすい一方、消費課税のような間接税には、輸出時の税還付や輸入時の課税といった国境税調整が認められる余地がありました。

つまり、補助金をそのまま出すより、税制の形にしたほうが通しやすい

付加価値税は、そういう国家にとって便利な税として育った、という見方です。


日本では最初に「売上税」として出てきた

日本でも、この税は最初から「消費税」ではありませんでした。

1987年、中曽根内閣は売上税法案を国会に提出しました。

大阪大学の論文によれば、自民党税調の山中案を軸に、売上税導入と所得税減税・法人税引下げを組み合わせた構想がまとめられ、党内調整を経て提出に至っています。

しかし売上税は反発を浴びて廃案になった。

なぜか。

理由の一つは、名前が正直すぎたからです。

「売上税」と言えば、まず事業者の売上にかかる税だと分かってしまう。

商店も中小企業も、「これは自分たちにかかる税だ」と直感できる。

だから反発も強くなる。


「消費税」という名前は、負担の主語をずらした

そこで出てきたのが「消費税」という名前でした。

これは単なる言い換えではありません。

「売上税」は、課税の入口が事業者にあることを見せる名前です。

でも「消費税」は、最終的に消費者が広く薄く負担する税だ、という印象を前に出せる。

つまり、負担の主語が「企業の売上」から「国民の消費」へ移されたのです。

この言い換えは大きい。

売上税では通りにくいものが、消費税なら「公平」「みんなで少しずつ負担」という物語に乗せやすくなるからです。

国税庁の資料でも、1989年の消費税導入は「所得・消費・資産等にバランスのとれた税体系」や「公平性の確保」と説明されています。

つまり、中身だけでなく、説明の仕方が変わったのです。


でも制度の実態は、名前ほど変わっていない

ここが重要です。

名前は「消費税」になった。

けれど、法律上の納税義務者は事業者です。

しかも国税庁が説明する納付税額の基本は、売上に係る税額から仕入れに係る税額を差し引く仕組みです。

つまり制度の中心にいるのは、最初から事業者です。

そう考えると、「売上税」のほうが制度の入口を正直に表していたとも言える。

逆に「消費税」は、最終負担のイメージを前に出すことで、制度の出発点を見えにくくした。

これが名称変更の本当の意味だと思います。


財界と大蔵省にも、この名前は都合がよかった

消費税は、大蔵省だけが欲しがった税ではありません。

経済同友会の沿革資料の検索結果には、土光敏夫経団連会長らが消費税導入を求めたことを示す記述があります。

またRIETIの論文では、経団連は1986年初頭には一般消費税の創設を支持する側へ転じたと整理されています。

つまり財界にも、この税を押す理由があった。

現在でも、経団連が消費税増税を求めたというニュースが流れるのはよくあることです。

一方、大蔵省にとっても、新しい基幹税の導入は税体系を組み替える大仕事です。

そう考えれば、「売上税」より「消費税」のほうが通しやすい名前だったのは当然です。

事業者課税の顔を後ろへ下げ、国民全体の負担として見せたほうが、政治的に有利だからです。


まとめ

フランスの付加価値税は、少なくとも一部の論考では、輸出企業支援とGATTの制約の中で生まれた税として語られています。

日本では、その系譜にある税がまず「売上税」として登場した。

しかしその名前では、事業者への課税という実態が見えすぎたため、強い反発を受けた。

そこで「消費税」という名前に変えることで、負担のイメージは「企業」から「消費」へずらされ、「公平で中立的な税」という物語が前に出された。

名前が変わったことで、税の正体が変わったのではない。見え方が変えられたのです。

だから消費税の歴史を見るときは、税率だけではなく、誰にかかる税を、誰が負担する税として見せたのかを見ないと、本質を見失うのだと思います。


参考にしたサイト

EUMAG|EUの付加価値税VATについて知りたい!
https://eumag.jp/questions/f1012/

協働公認会計士共同事務所|消費税の歴史
https://www.kyodo-cpa.com/report/01zeimu/2017/0908_84.html

RIETI|Keidanren, Consumption Tax, and the Lost Decade of the 1990s
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/16e043.pdf

大阪大学学術情報庫 OUKA|中曽根内閣と消費税:導入失敗の過程
https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/11471/25-13_n.pdf

国税庁|21 社会の変化への対応
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/sozei/shiryou/library/21.htm

経済同友会|第三章 低成長時代の模索
https://www.doyukai.or.jp/about/history/pdf/years70/years70_06.pdf

United States Senate Committee on Finance|Executive Branch GATT Study No. 1 Tax Adjustment in International Trade
https://www.finance.senate.gov/download/executive-branch-gatt-study-no-1-tax-adjustment-in-international-trade-gatt-provisions-and-eec-practices

時局|付加価値税の真相
https://jikyokusya.com/economic-theory/?postid=95

全国商工団体連合会|消費税は「関税」 岩本沙弓さんが解説
https://www.zenshoren.or.jp/zeikin/shouhi/150316-04/150316.html