「資本主義」という言葉はよく聞く。けれど、いざそれが何かを説明しようとすると、急にぼんやりする。自由競争のことなのか。企業がもうける仕組みのことなのか。それとも、お金がすべてを動かしている社会のことなのか。
たぶん、そのどれも半分は当たっている。でも半分ずつしか当たっていない。
資本主義をちゃんと見るには、企業、労働、利潤、銀行、貨幣がどうつながっているかを、一つの流れとして見る必要がある。今回は、資本主義と貨幣経済の基本モデルを整理したうえで、最後にMMTにも触れてみたい。
資本主義の基本は、私的所有と利潤動機だ
まず、いちばん基本のところから始めたい。
Britannicaは、資本主義を生産手段の私的所有を基盤とする経済システムだと説明している。さらに現代の資本主義は、市場志向型経済を含み、生産や価格、個人の所得は、政府の中央計画よりも、民間企業と個人の相互作用から生じる市場の力によって大きく決まるとしている。加えて、資本主義は私有財産、利潤動機、市場競争の上に成り立つと整理している。
出典:
https://www.britannica.com/money/capitalism
この説明をもっとかみくだくと、資本主義の基本モデルはこうなる。
- 生産手段は主に私企業が持つ
- 企業は利潤を得るために生産する
- 人々は労働力を売って賃金を得る
- その賃金で商品やサービスを買う
- 売上が企業に戻り、企業はさらに投資と生産を続ける
- この循環の中で、競争に勝った企業は拡大し、負けた企業は縮小する
つまり資本主義は、単に「自由な売買がある社会」ではない。
私的所有された生産手段を使って、利潤を目指して生産し、その利潤を再投資して拡大していく仕組みだ。
ここでは、生活そのものが経済循環の中に組み込まれる。
働くことも、買うことも、借りることも、投資することも、全部この仕組みの中で位置を与えられる。
賃金で生きる人が多数派になる
このモデルの大きな特徴は、多くの人が生産手段そのものではなく、自分の労働力を売って生きることだ。
自分で工場や設備や大きな資本を持っていない人は、働いて賃金を得る。
その賃金で生活に必要なものを買う。
だから、生活は市場から切り離されない。
ここが重要だと思う。
資本主義では、食べること、住むこと、学ぶこと、病院にかかることまで、かなりの部分が貨幣を媒介にしないと届かない。
つまり、貨幣経済は資本主義の外側にある飾りではなく、その中心部分にある。
「働かないと生きられない」という感覚も、
単なる道徳ではなく、
この仕組みの中で生まれる。
貨幣は単なる便利な道具ではない
ここで次に、貨幣経済の話に入る。
貨幣というと、つい「交換を便利にする道具」くらいに思いがちだ。
もちろんそれは間違いではない。
でも、現代の貨幣はそれだけではない。
イングランド銀行は、現代経済のお金の大半は、商業銀行が貸出を行うことで作られると説明している。また、銀行は単に預金者のお金を仲介して貸しているのではなく、貸出と同時に新しい預金を生み出すのであり、中央銀行マネーを何倍にも増やして貸しているという通俗的な理解も正確ではないと述べている。
出典:
https://www.bankofengland.co.uk/quarterly-bulletin/2014/q1/money-creation-in-the-modern-economy
これはかなり重要な話だ。
多くの人は、銀行を
「誰かの預金を別の誰かに貸す場所」
と考えている。
でも、この説明によれば、現代の銀行は
貸出を通じて預金そのものを作る。
つまり貨幣経済では、お金はただ流通するだけでなく、信用を通じて作られる。
この時点で、貨幣はもう、金貨や紙幣をただ受け渡しする世界の話ではない。
イングランド銀行の別の説明では、現代経済には主に通貨、銀行預金、中央銀行準備預金という三つの貨幣形態があり、それぞれが経済のある部門から別の部門へのIOU、つまり債務・債権関係を表しているとされている。検索結果上でも、現代のお金の大半は銀行預金の形で存在し、それは商業銀行自身によって作られると説明されている。
出典:
https://www.bankofengland.co.uk/quarterly-bulletin/2014/q1/money-in-the-modern-economy-an-introduction
ここから見えてくるのは、貨幣経済とは、
単にモノとモノを交換する世界ではなく、
債権・債務・決済・信用のネットワークの上に成り立つ世界だということだ。
資本主義では、貨幣は拡大のための血液になる
資本主義と貨幣経済が結びつくと、貨幣の意味はさらに強くなる。
企業は、売上を上げるために生産し、利潤を得る。
利潤を得たら終わりではなく、それを再投資してさらに拡大しようとする。
設備投資、人の採用、研究開発、在庫確保、広告、買収。
そのどれにも貨幣が要る。
つまり貨幣は、単なる交換手段ではなく、
拡大のための条件になる。
しかも銀行が信用を通じて貨幣を作るなら、
資本主義の成長は、単に今あるお金の奪い合いではなく、
新たな信用創造を伴いながら進むことになる。
ここで、景気の波やバブルや金融危機も理解しやすくなる。
信用が膨らめば、投資も資産価格も膨らみやすい。
逆に信用が縮めば、企業も家計も苦しくなりやすい。
だから資本主義は、モノを作る仕組みであると同時に、
信用を拡張しながら成長しようとする仕組みでもある。
国家はこの仕組みの外にいるわけではない
ここで大事なのは、国家がこの貨幣経済の外側にいるわけではないということだ。
前の記事でも見たように、日本銀行は「政府の銀行」として、税金や社会保険料の受入れ、年金や公共事業費の支払い、国債の発行や元利金支払いなど、国の事務を取り扱っている。
出典:
https://www.boj.or.jp/about/education/oshiete/op/f01.htm
つまり国家もまた、貨幣経済の中で支出し、徴税し、決済し、国債を発行する。
国家だけが市場の外で金貨の箱を持って待っているわけではない。
この点を見落とすと、国家財政を家計と同じように考えてしまう。
すると、
「まず税金を集めてからでないと使えない」
というイメージが強くなる。
でも実際には、現代の貨幣経済は、企業・家計・銀行・中央銀行・政府が複雑につながる仕組みとして動いている。
その中で国家だけを昔ながらの家計簿に押し込めるのは、やはり無理がある。
ここでMMTは何を言っているのか
ここでMMTに触れたい。
MMT(現代貨幣理論)は、この現代の貨幣経済を前提にして、
自国通貨を発行する政府を、家計のように理解するのは間違いだ
と強く主張する立場として知られている。
以下は理論上の一般的な整理だが、MMTは大まかに言えば、
- 政府支出は、家計のように「先に稼いでから使う」わけではない
- 税は単なる「支出の元手集め」ではなく、通貨需要の形成、需要調整、再分配などの役割を持つ
- 本当の制約は財政赤字それ自体より、実物資源の不足やインフレにある
と考える。
この感覚は、前回までの記事とかなりつながる。
予算の記事では、
予算は先に政治が支出を決め、税収をそのまま取り崩して使っているわけではない
という点を見た。
「国の借金」の記事では、
“借金”という言葉自体が、国家財政を家計の恐怖に置き換えるフレーミングになっている
という点を見た。
MMTは、まさにその二つを正面から問題にする。
つまり、
国家財政を家計と同じ図で見るな
ということだ。
ただし、ここで誤解してはいけない。
MMTは、
「いくらでも無限に使ってよい」
と言っているのではない。
少なくとも理論上の核心は、
本当の制約はお金そのものではなく、インフレと実物資源の限界だ
という点にある。
だからMMTに立つなら、政策評価の問いはこう変わる。
- 財源はあるのか、ではなく、
- 人・モノ・設備・労働力は足りるのか
- 供給能力を超えないか
- 過剰なインフレを起こさないか
- どこに資源を配分するのが妥当か
という問いになる。
資本主義の問題は「お金があるか」だけではない
ここまで来ると、資本主義の問題も少し違って見えてくる。
資本主義のもとでは、
生産は利潤動機に導かれ、
貨幣は信用を通じて拡張され、
人々の生活は賃金と価格の世界に深く組み込まれる。
だから問題は単純に
「お金が足りない」
ではないことが多い。
本当は、
- もうけにならない分野には資源が向かいにくい
- 生活に必要でも市場では弱い分野がある
- 信用拡大が投機に流れやすい
- 生産能力があっても購買力の配分が偏る
- 国家が何を支えるかで結果が大きく変わる
という問題のほうが大きい。
つまり、資本主義と貨幣経済を理解するとは、
単に「市場はすごい」とか「政府は無駄だ」といった雑な話をすることではない。
生産、信用、利潤、労働、国家がどう結びついているかを見ることだ。
おわりに
資本主義の基本モデルは、案外シンプルだ。
私的所有された生産手段を使って、企業が利潤をめざして生産し、人々は労働力を売って賃金を得て、その賃金で商品やサービスを買う。
この循環が市場競争の中で続いていく。
出典:
https://www.britannica.com/money/capitalism
でも、そのシンプルなモデルは、貨幣経済に入った瞬間にかなり複雑になる。
なぜなら、現代のお金は単なる硬貨の受け渡しではなく、銀行信用、預金創造、決済、国家支出、国債、中央銀行を含む仕組みの中で動いているからだ。イングランド銀行も、現代経済のお金の大半は商業銀行の貸出によって作られると説明している。
出典:
https://www.bankofengland.co.uk/quarterly-bulletin/2014/q1/money-creation-in-the-modern-economy
そしてMMTは、その現代の貨幣経済を踏まえて、
国家を家計のように考えるな
と強く言う。
この立場に全面的に賛成するかどうかは別として、
少なくとも一つ確かなのは、
私たちがふだん聞かされている
「税金がないから無理」
「国の借金は家計の借金と同じ」
といった話が、かなり単純化された物語だということだ。
資本主義と貨幣経済を考えるというのは、
結局のところ、
私たちが生きている仕組みを、道徳ではなく構造として見ること
なのだと思う。

